文学座付属演劇研究所五十三期本科夜間部卒業記念「花火、舞い散る」をさきほど観てきた。特に内容についての予備知識はなく観てきたのだけど、とても良かったし、自分がちょうどいま思うところと演劇の内容が刺さって感動してしまった。

観客も多くて役者さん各位と話す時間も十分でなかったし、この公の場を使って感動冷めやまぬうちに感想をしたためようと思う。以降ネタバレ含むので、観劇がまだでこれから観る人は閉じてください。

全体の感想

もともと知人のまみむめありーことみおりちゃんの出演ということで行ったのだけど、彼女の出番より前に途中の弟子たちの白熱したシーンで不覚にも涙が出てきてしまって、そのあとはもう涙腺がゆる〜くなってしまってことあるごとに涙が止まらなくなってハンカチがぐずぐずになってしまい、隣の人にえっちょっなんでこの人そんなに泣いてるの大丈夫?みたいな不審な状態になってしまった。

話の内容としては比較的ありきたりといえばそうで、頑固な花火職人の父、跡継ぎを誰にするかを巡ってみんな真剣、そんなときに父の病気が明らかになって、、というような感じ。

跡継ぎ候補たちの仕事に対する真剣さと父親の頑固な職人気質、みんなをまとめる的な存在の野田のムードメーカーぶりと衝突もありつつ家族とチームが一体となっているさま、その雰囲気が全体としてよく出ておりビンビン伝わってきた。おそらくは、自分がいま仕事というもの、はたらくということ、特に好きなことを仕事にしてはたらくということに色々な思うところがあって、ちょうどそこにあの内容だったので心に刺さったのだろうきっと。弟子たちが長である前園家の父に頭を下げて真剣に懇願するシーンを演じる役者さんたちの熱気、必死さが伝わってきて、涙が出てきてしまったのだと思う。あとカップル何組かのお互いを想う様も味が抜群に出ていて、これは演じている役者さんもそうだが、シナリオも王道ながらとてもよく考えられたものだと思う。こういう物語を書けるようになりたいものだ。そして何より、これらに加えてみんなで演劇を作るチームワークのようなものが伝わってきて、その一体感もとても心地良いものだった。そしてその役者陣の一体感こそがまた自分にとっても考えさせられる点でもあった。

個別の役者さんの感想

とくに印象に残った人について書いていきたい。

前園 (父) 役 福井さん
ま、いわゆる頑固な主人役。最初は声のトーンの高さから威厳がいまひとつな気がしたものの、しばらく見ているうちに味があってこれはこれでいいなと感じるようになった。六十まで花火職人を続けている頑固おやじの、仕事について考えるときのふっとした息づかい、目線、どこか優しくも厳しい目線、そういったところがよく表現できていたと感じた。

野田 役 塩谷さん
チームのまとめ役というかムードメーカー的な役割のキャラクターなのだけど、まず明るさが伝わってきた。これは役としてのものなのか本人のものなのか役者さんを存じ上げていないのでわからなかったのだけど、こういうまとめ役の人がいればチームも明るくなるだろうし、いろんなキャラクターがいる中で役のうちとしてもまた演劇の要としても重要な役割だったと思う。その役割を見事に果たしていたのが素晴らしいと思う。伸び伸びとした明るい演技で観てて気持ちよかったなぁ。

栗原 役 小西さん
若き女性弟子なのだけど女だてらに花火への思いは真剣、そしてそのルーツをたどると実は五年前に見た前園父の奇跡とも言える花火の一発であると明かされていくのだけど、いわゆる女らしくない (役者本人さんは可愛らしいのだけど) 職人気質の若きエースという感じがよく出ていた。なんだか現実にいてもこういう人が地道ながらに文句の付けようがない良い仕事をしそうという雰囲気だった。

次女 結衣役 太田さん
家族思いで家族一人ひとりのことを心から大切にしているところ、凛として毅然なところ、謙虚で優等生なところ、院に通っていてちょっと頭の良さそうなエリートっぽいところがよく表現できていたと思う。これが演じているのであればすごいし本人の人柄なのであればこれまたいいな。

長男 陽一役 花園さん
ひたむきに仕事に打ち込みつつも頑固な父に認められず悩める長男なわけだけど、時には衝突したりしてみんなに取り押さえられたり水をかけられたり散々な目にもあう。まあその芽の出ない感じというか、また父親譲りの頑固な面も持ち合わせているところとか、すごく共感する部分であったりしてついつい感情移入してしまった。

三女 千晶役 小山さん
いわゆる花火職人への道を歩まず田舎から東京に行ってしまった妹なのだけど、心の底ではやはりどこか花火のことを忘れられず愛している。最初は東京は楽しいよなんていうものの、、でもやっぱり、というアレがすごくいい感じに演じられていたと思う。とくに花火がやっぱり好きだとなるシーンでの、目の輝きが良かった。ただシナリオ的にはもう少しいや職人なんてやめて都会へ行こう的な引っ張りがあってもよかったかな、わりと簡単にすぐ花火好き感が出てしまった気がするがまあでもこれはこれでいい。あと役者さんの足がえらく白く細く長くてスタイルいいなと思った。 (演技関係なくてごめんなさい)

山本役 岡田さん
こちらは長く花火職人をやっているがなかなか認められず、鬱積した感じの役なんだけど、これまたその役割に対する感情移入も手伝って良かったなあと思った。陽一と喧嘩するシーンとか。チームの中ではもっとも怒りとか暗い感じとかを抱く役なので、演じるのが難しいんだろうなあと思いつつ、それを果たしていたのがすごいなぁと思った。鬱屈したところと花火師たち全体とのバランスもとれていたと思う。

潔役 中田さん
ネタ的な役割なのだけれど、とはいえ見せ所もあり、これは役者さん本人もさることながらシナリオも各役にうまくスポットを当てるように書かれておりさすがだなあと思った。いいキャラクターを演じていた。

母史子役 竹田さんと長女役 三竿さん
出たがりなところで笑いを誘うところとか、大事な場面での家族想いな優しい発言だったりとか、味のあるメリハリのついた役を演じられていたと思う。あと父の奇跡なんて起こさないほうがよかったなという台詞に対して、母が職人が言うことじゃないと諭すシーンが全体を通しても特に良かった。

明菜役 みおりちゃん
みおりちゃんのことはよく知っているので、そのせいで劇中では悪女なのだけれども、つい普段のみおりちゃんの言動が被ってしまった。とはいえ演技力は十分でしっかりシナリオ上求められる役割を果たせていたと思う。演じるのが難しい役だったのではないだろうか。みおりちゃんの演技は他にも色んな役を演じているところを観てみたいな。

その他の役者さんの演技もとても良かった。すでに前にも書いたけど全体として花火チームがまとまっている印象が最終的に破門された山本まで含めて滲み出ていた。空気感、息づかい、特に前半の緊張感など。演劇においてもとても良い雰囲気で練習を重ねたんだろうなあと勝手に想像してしまった。で、そういうところがいま自分の思うところと色々重なって感動してしまったという感想。そんなわけで演劇を観ていない人にとっては全く関係のない記事である。仕事終わりにごはんを食べずに演劇を観に行っておなかがへっていたのだけどそんなことを忘れるくらい楽しかったです。わたしはいまからごはんを食べます。おしまい。

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