ロジカルシンキングの整理

ロジカルシンキングと呼ばれるスキルを求められる場面が最近多いので整理する。これは思考を構造化し、伝わる論理を構築するための基礎と実践である。

1. ロジカルシンキングとは何か

ロジカルシンキング(論理的思考)とは、感情や直感に流されず、筋道を立てて考える思考技術である。目的は「正しさ」ではなく、誰が聞いても納得できる説明をつくることにある。

論理的に考えるとは、次の3つを意識することに他ならない。

  1. 物事を構造で捉える(体系的)
  2. 因果関係でつなぐ(整合的)
  3. 他者に伝わる形で表現する(説得的)

2. 基本原則 ― ロジカルシンキングの三大軸

(1) MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)

「漏れなく・ダブりなく」整理する原則。情報や原因を分類する際、重複や抜けを防ぐことで、思考の全体像を正確に把握できる。

例:売上減少の原因分析

売上減少
├─ 客数減少(人の問題)
│   ├─ 新規顧客減少
│   └─ 既存顧客離脱
└─ 客単価減少(商品・価格の問題)
    ├─ 値引きキャンペーン増
    └─ 高単価商品の売上減

(2) ロジックツリー(Logic Tree)

「なぜ?(Why)」または「どうすれば?(How)」で思考を分解する手法。複雑な問題を階層的に因果分解することで、根本原因や打ち手を見つけやすくする。

  • Whyツリー(原因分析):問題の根本を掘り下げる。
  • Howツリー(手段展開):目標を実現する手順を考える。

例:Whyツリー

納期遅延が多い
├─ 作業遅延
│   ├─ 人員不足
│   └─ 手順の複雑化
└─ 外注遅れ
    ├─ 発注遅れ
    └─ 納品管理ミス

(3) So what / Why so(双方向検証)

So what?(だから何?):結論の意味・意義を上方向に確認する。
Why so?(なぜそう言える?):根拠を下方向に掘り下げる。

この往復によって、論理の飛躍を防ぎ、「根拠→結論」の連鎖を強化する。

例:

売上が下がった。
→ Why so? なぜ? → 新規顧客が減っている。
→ Why so? → 広告反応率が低下している。
→ So what? → 広告戦略を見直す必要がある。

3. 思考の構造 ― PREP法とピラミッド構造

(1) PREP法

文章や発言を結論→理由→具体例→再結論で構成する手法。短時間でも説得力を生む代表的な構文。

例:

結論:新しい在庫管理システムを導入すべきです。
理由:現行システムでは在庫誤差が平均3%発生しています。
具体例:先月も誤登録で3件の出荷遅延がありました。
再結論:導入により誤差を1%以下に抑制できます。

(2) ピラミッド構造(Barbara Mintoの原則)

主張を頂点に置き、その下に根拠・事実を階層的に配置する構造。文章・資料・議論を整理する際の基礎モデル。

結論:在庫管理システムを導入すべき
├─ 根拠1:現行システムの誤差率が高い
│   └─ 事実:平均誤差3%、出荷遅延発生
├─ 根拠2:新システムは精度向上とコスト削減を両立
│   └─ 事実:導入企業で誤差1%未満を実現
└─ 根拠3:競合も同様のシステムを採用中
    └─ 事実:主要3社中2社が導入済み

4. 主なフレームワークと用途

フレームワーク 概要 主な利用場面
3C分析 Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社) 市場分析、戦略立案
SWOT分析 Strength・Weakness・Opportunity・Threat 内外環境の整理、方針決定
ロジックツリー Why/Howで階層分解 問題分析、課題設定
ピラミッド構造 結論から根拠を下に積み上げる 報告・提案・説明資料
MECE分類 重複・漏れを防ぐ体系的整理 情報構造化、原因分析
PREP法 結論→理由→具体例→再結論 説明・プレゼン・報告文
フレーム・ワークシート法 論点をマトリクス化して比較検討 複数案の評価・意思決定

5. ビジネス文書・報告書への応用

(1) 報告書

  • 構成:事実 → 分析 → 結論
  • 目的:何が起こったか・なぜか・どう対応するかを明示
  • コツ:ピラミッド構造+MECEで整理

(2) 提案書

  • 構成:結論 → 根拠 → 効果 → 方法
  • 目的:相手に納得と行動を促す
  • コツ:PREP法をベースに、数値根拠で裏づけ

(3) 議事録・分析資料

  • 構成:要点 → 理由 → 決定事項
  • 目的:論点整理と次の行動計画の明確化
  • コツ:MECEで項目整理し、抜けを防ぐ

6. 議論・会議への応用

(1) 基本構造(Claim–Reason–Evidence)

発言は「主張→理由→証拠」で組み立てる。

この仕様変更は必要です。
理由:ユーザー離脱率が上昇しているため。
証拠:直近3か月で利用率15%減少のデータ。

(2) 議論の整理法

  • ロジックツリーで論点を分解(問題を構造的に捉える)
  • MECEで発言を整理(重複・漏れを防ぐ)
  • So what / Why soで検証(根拠と結論を往復確認)

(3) 意見対立時のロジカル対応

  1. 相手の主張を要約して確認:「あなたは○○と考えているという理解で正しいですか?」
  2. 論点を分離:「目的」と「手段」を切り分ける。
  3. 前提条件を明示:「この前提が正しいなら、あなたの意見も妥当です。」
  4. 合意点と相違点を明確化:論点を構造化し、共通土台で議論を進める。

(4) チェック質問集

種類 質問 効果
So what? だから何? 結論の意義を明確化
Why so? なぜそう言える? 根拠を確認
What else? 他にある? 見落とし防止
What if? もし違ったら? リスク検討

7. 実践ステップまとめ

  1. 目的を明確化(何を解決/説明するのか)
  2. 情報収集と整理(事実・意見を分ける)
  3. 要素をMECEで構造化
  4. 因果関係をロジックツリーで整理
  5. 結論を導出(So what / Why so検証)
  6. 説明をPREPまたはピラミッド構造で構築
  7. 議論や発表でClaim–Reason–Evidenceで展開
  8. 議論後に論点・前提・決定事項を再確認

8. ロジカルシンキングの効果と限界

効果

  • 思考の抜けや重複を減らす
  • 説明力・説得力が高まる
  • 感情的対立を避け、合意形成が容易になる
  • 組織全体で共有可能な思考の共通言語を得る

限界

  • 新しい発想(創造性)は生まれにくい
  • データに偏ると直感的な判断を軽視しがち

よって、ロジカルシンキング+クリティカル/ラテラルシンキングを併用するのが理想。


9. 総括

ロジカルシンキングとは単なる分析技法ではなく、思考と伝達の共通基盤である。MECEで整理し、ロジックツリーで構造化し、PREPやピラミッドで伝える。議論ではSo what/Why soで検証し、合意形成を論理で導く。

ロジカルシンキング=「考える力」+「伝える力」+「納得させる力」

この3つを一体化することで、個人の説得力と組織の意思決定力を同時に高められる。

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