GNU/Linux で確定申告をする方法 2026

本稿は、GNU/Linux 環境から日本の確定申告をオンラインで完了させたい人に向けて、現時点で現実的に成立する方法を、事実と推測を分けながら整理した記事である。結論を先に述べると、国税庁は GNU/Linux を推奨環境に含めていないため公式には非対応だが、申告書作成コーナーのうちブラウザー中心で完結する経路は Linux でも動く余地があり、とくに QR コード認証とスマートフォンを組み合わせる経路は実務上もっとも成立しやすい [1][2][3]

ただし、ここでいう「使える」は公式保証を意味しない。国税庁の公式文書が保証しているのは Windows と macOS の一定の組み合わせであり、GNU/Linux での成功は、公式に明示された対応範囲の外で、ブラウザーの挙動と認証経路の実装上たまたま成立している部分を利用しているにすぎない。この前提を外すと議論が混乱するため、本稿ではまず公式に確認できる事実を置き、その上で観測事実から妥当と考えられる実務手順を積み上げる [1][4]


1. まず押さえるべき前提

確定申告のオンライン提出を Linux で考えるとき、多くの人は「Linux で e-Tax は使えるのか」という一問一答を期待する。しかし実際には、その問いは粗すぎる。正確には、何をどの経路で使うかを分解しないと答えが定まらない。申告書作成コーナー、e-Tax ソフト ( WEB 版 )、マイナンバーカード方式、ID・パスワード方式、IC カードリーダライタ方式、QR コード認証方式は、それぞれ前提となるソフトウェアとブラウザー判定が異なるためである [1][5][6]

したがって、Linux で確定申告を実現するには、「公式に何が推奨されているか」と「実際にはどこまでブラウザーだけで処理できるか」を別々に見る必要がある。前者は法的・運用的な安全側の情報であり、後者は実務上の可否を決める情報である。この二層を混ぜると、公式非対応だから絶対に無理という誤解と、動いたから公式に使えるという誤解の両方が起きる [1][4][5]


2. 公式に確認できる事実

2.1 国税庁の推奨環境に GNU/Linux は含まれていない

令和 7 年分の確定申告特集にある「利用環境の確認はこちら」では、パソコン環境として Windows と Macintosh の推奨組み合わせが案内されている一方、GNU/Linux は列挙されていない。これは「動かない」と断言しているのではなく、「国税庁が動作確認した推奨環境に含めていない」という意味であるが、少なくとも公式サポート対象外であることは明確である [1]

観点 公式に確認できる内容 Linux 利用者にとっての意味
確定申告書等作成コーナーの推奨環境 Windows と Macintosh の組み合わせが掲載されている。 GNU/Linux は少なくとも公式推奨環境の外にある。
QR コード認証の案内 パソコン画面の QR コードをマイナポータルアプリで読み取る方式が案内されている。 PC 側でカードを直接読む必然性はない。
ID・パスワード方式 確定申告書等作成コーナーでのみ使える暫定的方式として案内されている。 マイナンバーカードがなくても使える余地がある。
e-Tax ソフト( WEB 版 ) 電子証明書や事前準備セットアップが必要な場面がある。 Linux での全面運用は難しくなりやすい。

2.2 QR コード認証は「スマホをカードリーダー代替として使う」公式機能である

e-Tax の公式説明では、QR コード認証は、スマートフォンにインストールしたマイナポータルアプリでパソコン画面の QR コードを読み取り、スマートフォンを IC カードリーダライタの代替として使う仕組みとされている。つまり、カードそのものの読取りを PC 側ハードウェアに依存させないのが、この方式の中核である [2][3][7]

この点は Linux 利用者にとって決定的に重要である。なぜなら、Linux で困難なのは「税務計算」ではなく、「カード読取りのための専用ソフトや専用ブラウザー連携」であることが多いからだ。QR コード認証は、その難所をスマートフォンに逃がす経路として理解すると全体構造が見えやすい [2][5]

2.3 マイナポータルアプリと対応スマートフォンが必要である

QR コード認証は単にスマホがあればよいのではなく、マイナポータルアプリを使うことが前提であり、QR コード読取アプリや標準カメラだけでは代用できないとパソコン版ガイドに明記されている。また、対応機種一覧では、2026 年 3 月 6 日時点で iOS は iOS 16 以上の iPhone 8 以降が対象とされ、Android は別途対応機種一覧が提供されている [3][8][9]

2.4 ID・パスワード方式は残っているが、暫定方式であり新規発行停止が案内されている

ID・パスワード方式は、確定申告書等作成コーナーに限って利用できる送信方式として国税庁が案内している。この方式では電子証明書による電子署名が不要になるが、これは税務署で事前本人確認を行うことを前提にした暫定措置であり、国税庁はマイナンバーカード取得を推奨している。さらに、現行ページでは新規発行停止も重要事項として案内されている [10]

2.5 e-Tax ソフト ( WEB 版 ) と IC カードリーダライタ前提の経路は Linux に不利である

e-Tax ソフト ( WEB 版 ) の公式説明では、申告等データ送信時には電子証明書が必要であり、電子証明書が IC カードに格納されている場合は IC カードリーダライタとそのデバイスドライバが別途必要とされる。また、事前準備セットアップやルート証明書インストーラには Windows 向けの配布形態が見られ、少なくとも Linux 前提の運用は想定されていない [5][11][12]

この事実から言えるのは、Linux で確定申告をしたいなら、まず「ブラウザー中心で完結する経路」に寄せるべきであり、専用セットアップやカードリーダライタを必要とする経路に踏み込むほど難度が急上昇するということである。これは推測ではなく、公式要件の比較から論理的に導ける結論である [2][5][11]

申告経路 必要な機材 Linux との相性 理由
QR コード認証(マイナンバーカード方式) PC、スマートフォン、マイナンバーカード 高い カード読取りをスマートフォン側で行うため、PC 側に IC カードリーダライタや専用ソフトを必要としない。
ID・パスワード方式 PC 中程度 電子証明書やカード読取りが不要でブラウザー中心に処理できるが、事前に税務署で ID を発行済みである必要がある。
IC カードリーダライタ方式 PC、IC カードリーダライタ、マイナンバーカード 低い カード読取りのためのドライバや事前準備セットアップが必要になり、Linux では公式に想定された構成になっていない。
e-Tax ソフト(WEB 版)中心の運用 PC、電子証明書、事前準備セットアップ 低い 電子証明書インストールや専用セットアップなど Windows 前提の手順が含まれるため、Linux 環境では手順の成立が難しくなる。

3. Linux で現実的に成立しやすい方法

以上の事実を踏まえると、GNU/Linux で現実的に成立しやすい方法は 2 つに絞られる。第 1 は、パソコンで申告書を作り、スマートフォンのマイナポータルアプリで QR コード認証を行う方法である。第 2 は、既に税務署で本人確認済みの ID・パスワード方式を使う方法である。この 2 つに共通するのは、PC 側で IC カードリーダライタを直接扱わない点である [2][3][10]

方法 成立しやすさ 理由
QR コード認証 + スマートフォン読取り 高い カード読取りをスマートフォン側へ逃がせるため、Linux 側で専用周辺機器を扱わずに済む。
ID・パスワード方式 中程度 ブラウザー中心で完結しやすいが、事前発行済みであることが前提になる。
IC カードリーダライタ方式 低い 事前準備セットアップやデバイスドライバ依存が強く、公式に Linux 前提で案内されていない。
e-Tax ソフト( WEB 版 )を全面利用する経路 低い 電子証明書、事前準備セットアップ、証明書インストールなどの前提が増える。

4. それでも Linux が弾かれる理由

ここから先は、公式文書だけでは十分に説明されないが、現在の Web 技術仕様から合理的に説明できる領域に入る。結論だけ先に述べると、Linux で弾かれる主因は、税務計算ロジックそのものではなく、サイト側がブラウザーと OS を識別して推奨環境外を排除する「環境判定」にあると考えるのが妥当である。これは、Linux 利用者の成功例が User-Agent 変更で改善すること、およびブラウザー側が送る識別情報の構造から説明できる [13][14][15]

4.1 User-Agent とは何か

HTTP の User-Agent ヘッダは、リクエスト元のアプリケーション、OS、ブラウザー種別やバージョンを相手に伝える識別文字列である。サーバー側はこの文字列を読んで、「Windows の Chrome か」「macOS の Safari か」「Linux の Firefox か」といった粗い分類を行える [13][16]

Qiita にある Linux 利用事例では、Ubuntu 上の Chrome から確定申告書作成コーナーを開く際、Developer Tools の Network conditions 機能で User-Agent を変更すると進めたと報告されている。これは公式保証ではないが、少なくとも「環境判定の一部が User-Agent 依存である」ことを示す重要な観測である [4]

4.2 近年は User-Agent だけではなく Client Hints も見られる

しかし近年の Chromium 系ブラウザーでは、User-Agent 以外に User-Agent Client Hints が送られる。Chrome の公式ドキュメントと MDN の解説によれば、`Sec-CH-UA` や `Sec-CH-UA-Platform` などのヘッダは、ブラウザーのブランド、バージョン、OS 名などをより構造化してサーバーへ伝えるための仕組みである [14][15][17]

このため、Linux 上の Chrome で文字列だけ Safari 風に偽装しても、別の経路で「Google Chrome」「Chromium」「macOS」などの Client Hints が送られ、矛盾が生じることがある。これは筆者が前段で説明してきた現象、すなわち「User-Agent は Safari なのに Client Hints は Chrome と出る」状況を技術的に説明するものである。ここは一般的な Web 仕様からの推論ではなく、仕様書通りに考えれば当然起きうる整合性問題である [14][15][17]

4.3 Firefox が相対的に有利に見える理由

MDN の互換性情報では、User-Agent Client Hints API について Firefox は未対応とされている。また Mozilla の Bugzilla でも、Firefox は `navigator.userAgentData.getHighEntropyValues` を現時点でサポートしていない旨の記述がある。したがって、少なくとも Chromium 系よりは、偽装時に「文字列は Safari だが別経路では Chrome だ」と露見しにくい構造になっている [18][19]

ここで重要なのは、「Firefox なら必ず通る」と断言しているのではない点である。事実として言えるのは、Firefox は UA Client Hints 未対応であり、識別に使われる情報の層が Chromium より少ないということまでである。そのため、Linux 利用者が実務上の成功率を上げたいとき、Firefox を第一候補にする判断には技術的合理性がある、というのが本稿の結論である [18][19]

識別層 取得される情報 技術仕様 Linux 偽装への影響
User-Agent OS 名、ブラウザー名、ブラウザーバージョンなどを含む識別文字列 HTTP User-Agent ヘッダ 文字列を書き換えることで Windows や macOS に偽装できる可能性がある
User-Agent Client Hints ブラウザーのブランド、バージョン、OS プラットフォームなどを構造化して送信 Sec-CH-UA / Sec-CH-UA-Platform など UA を偽装しても Chrome などの実ブラウザー情報が露見する場合がある
JavaScript API ブラウザーやデバイス機能、WebAuthn 対応状況など navigator 系 API、WebAuthn API 環境判定の追加材料として使われる可能性があり完全偽装は難しい

5. 事実と推測を分けて整理する

事実として確認できることは、国税庁が GNU/Linux を推奨環境に含めていないこと、QR コード認証がスマートフォンを IC カードリーダライタ代替として使う公式機能であること、ID・パスワード方式が存在すること、そして Chromium 系ブラウザーが UA Client Hints を送る仕様を持つことである [1][2][10][14]

推測として述べるべきことは、確定申告書作成コーナーが内部で具体的にどの条件分岐を書いているかである。国税庁はブラウザー判定ロジックのソースコードを公開していないため、「この条件で Safari を必須にしている」と断言はできない。ただし、推奨環境表示、実際の警告表示、User-Agent 偽装の成否、Client Hints の仕様を突き合わせると、「環境判定が User-Agent とそれに準ずる情報を参照している」という推測は十分に合理的である [1][4][14][15]

区分 内容 根拠 説明
事実 国税庁は GNU/Linux を推奨環境に含めていない [1] 確定申告書作成コーナーの公式動作環境には Windows と macOS が記載されており GNU/Linux は対象外とされている
事実 QR コード認証はスマートフォンを IC カードリーダライタ代替として使用する公式機能である [2] スマートフォンの NFC 機能を使いマイナンバーカードを読み取る方式が e-Tax の正式な認証方法として提供されている
事実 ID・パスワード方式が存在する [10] 税務署で発行される ID とパスワードを使ってログインする方法が制度として用意されている
事実 Chromium 系ブラウザーは UA Client Hints を送信する仕様を持つ [14] `Sec-CH-UA` などのヘッダを用いてブラウザー情報を構造化してサーバーへ送信する仕組みが定義されている
推測 確定申告書作成コーナーはブラウザーと OS の組み合わせを判定している [1][4] 推奨環境表示と実際の警告表示が一致しており User-Agent を変更すると挙動が変わるという観測から推測できる
推測 環境判定には User-Agent だけでなく Client Hints も参照されている可能性がある [14][15] UA 偽装を行っても Chromium 系ブラウザーでは実ブラウザー情報が露見する現象が観測されるため合理的に説明できる

6. 2026 年時点で最も現実的な推奨構成

以上を踏まえたとき、GNU/Linux 利用者にとって 2026 年時点で最も現実的な構成は、「PC は Linux の Firefox を使い、必要に応じて User-Agent を Windows または macOS 系へ変更し、マイナンバーカードの読取りはスマートフォンのマイナポータルアプリに任せる」というものである。これは万能ではないが、公式機能の範囲を最大限活用しつつ、Linux 側の不利な部分を最小化する構成である [2][3][18][19]

要素 推奨 理由
PC 側 OS GNU/Linux 本稿の前提であり、申告書入力自体はブラウザー中心で進められる。
PC 側ブラウザー Firefox を第一候補とする。 UA Client Hints 未対応で、識別情報の矛盾が起きにくい。
認証方式 QR コード認証を優先する。 IC カードリーダライタの依存をスマートフォンへ逃がせる。
スマートフォン マイナポータルアプリ対応機種を使う。 対応機種でないとカード読取りが成立しない。
代替手段 ID・パスワード方式を検討する。 事前発行済みならブラウザー中心で処理しやすい。

7. 実践手順を最初から最後まで説明する

7.1 事前に準備するもの

必要なのは、GNU/Linux が動くパソコン、マイナンバーカード、マイナポータルアプリ対応スマートフォン、そして安定したネットワーク環境である。対応スマートフォンについては、少なくとも 2026 年 3 月 6 日時点で iPhone は iOS 16 以上の iPhone 8 以降が対象とされ、Android は個別の対応機種一覧で確認する必要がある [8][9]

7.2 PC 側ブラウザーは Firefox を第一候補にする

最初から Chrome を選ぶ理由がないわけではないが、Linux 上での偽装整合性まで考えるなら、Firefox を第一候補に置くほうが合理的である。理由は前節の通りで、Chromium 系は `Sec-CH-UA` 系ヘッダによって本体情報が別経路で伝わりやすいのに対し、Firefox はこの点で比較的単純だからである [14][18][19]

7.3 最初は偽装なしで開き、弾かれたときだけ対処する

ここで過剰な操作を先に入れないことが重要である。まずは素の Firefox で申告書作成コーナーを開き、どの地点で止まるかを確認する。なぜなら、実際の判定は年度や画面によって差があり、最初から複数の偽装を重ねると原因が分からなくなるからである。公式に Linux を保証していない以上、「最小変更でどこまで進めるか」を観測しながら進むのが合理的である [1][4]

7.4 弾かれたら User-Agent 変更を検討する

もし推奨環境外の警告で先へ進めない場合は、User-Agent の変更を検討する。ここでの狙いは Linux を Windows や macOS に見せることであって、実ブラウザー機能を変えることではない。したがって、これは「動作機能の追加」ではなく「環境判定の回避」であると理解しておくべきである [4][13][16]

Windows 系の User-Agent へ寄せる方法も、macOS 系の User-Agent へ寄せる方法も理屈としてはあるが、Linux からの実務運用では、Firefox において単純な OS 偽装で足りるかをまず試し、それでだめなら別経路を考える順番がよい。Chromium 系で Safari 風文字列を入れるだけの方法は、Client Hints と矛盾しやすいので後順位である [14][18][19]

7.5 QR コード認証を選ぶ

申告書作成コーナーに入れたら、提出方法はマイナンバーカード方式の中でも QR コード認証を優先する。ここで重要なのは、「パソコンでマイナンバーカードを読む」のではなく、「パソコンに表示された QR コードをスマートフォンのマイナポータルアプリで読む」という順序である。公式ガイドもこの流れを前提に説明している [2][3][7]

7.6 スマートフォンでカードを読む

PC 画面の QR コードをマイナポータルアプリで読み取った後、利用者証明用電子証明書の暗証番号を入力し、スマートフォンでマイナンバーカードを読取る。このとき、標準カメラや別の QR 読取アプリではなく、必ずマイナポータルアプリを使う必要がある。ここを取り違えると「スマホはあるのに認証が進まない」という典型的な詰まり方をする [3][7][8]

7.7 申告書を作成して送信する

認証が完了すれば、その先の所得入力、控除入力、還付口座入力、最終確認といった本体処理は基本的に通常のブラウザー操作である。つまり、Linux で問題になるのは多くの場合、税額計算ではなく環境判定と認証導線であり、本体画面に入ってしまえば通常の Web アプリケーションとして扱える部分が大きい。この整理を持っておくと、不具合切り分けがしやすくなる [1][3]

7.8 送信後の保存

送信後は、受付結果、送信票、申告書 PDF を保存しておく。公式推奨環境では PDF 閲覧ソフトとして Adobe Acrobat Reader DC が案内されているが、Linux で作業記録として保存するだけなら、Firefox 内蔵の PDF 閲覧機能や一般的な Linux 向け PDF ビューアでも内容確認はできる。ただし、ここは公式保証の範囲外であるため、表示崩れや印刷結果の差異には注意が必要である [1][11]

手順 作業内容 目的 注意点
1 GNU/Linux パソコン、マイナンバーカード、スマートフォン、ネットワーク環境を準備する 申告処理に必要な基本環境を整える スマートフォンはマイナポータルアプリ対応機種である必要がある
2 PC 側ブラウザーとして Firefox を用意する Client Hints の影響を避け、環境判定の複雑性を下げる Chromium 系ブラウザーは UA 偽装時に整合性問題が起きる可能性がある
3 偽装を行わずに確定申告書作成コーナーへアクセスする どの段階で環境判定により停止するかを観測する 最初から複数の偽装を入れると原因切り分けが難しくなる
4 必要に応じて User-Agent を Windows または macOS に変更する Linux 非対応判定を回避する 機能を追加する操作ではなく環境判定を回避するための措置である
5 提出方法としてマイナンバーカード方式の QR コード認証を選択する PC のカードリーダー依存を避ける IC カードリーダライタ方式とは認証手順が異なる
6 スマートフォンのマイナポータルアプリで QR コードを読み取りカードを認証する スマートフォンの NFC を利用してカードを読み取る カメラアプリではなくマイナポータルアプリで読み取る必要がある
7 所得情報や控除情報を入力して申告書を作成し送信する 税額計算および電子申告の実行 環境判定を通過すれば通常の Web アプリとして操作できる
8 受付結果、送信票、申告書 PDF を保存する 申告記録の保管 Linux では一般的な PDF ビューアでも閲覧可能だが公式保証はない

8. つまずきやすい点と対処

8.1 「ご利用の環境では QR コード方式を利用できない」と出る場合

この場合、まず疑うべきは Linux そのものではなく、ブラウザー識別である。とくに Chromium 系では、User-Agent を変えても Client Hints で Chrome 系であることが見えてしまい、表面的な文字列変更だけでは通らないことがある。したがって、Firefox へ切り替えて再度試すことには技術的理由がある [14][18][19]

8.2 「Safari を使ってください」と出る場合

この表示を見て「macOS が必須だ」と理解するのは早計である。実際には、サイト側が Safari を推奨環境として強く意識している、あるいは識別上 Safari に分類された環境だけを安全側として通している可能性が高い。ここで言えるのは、少なくとも画面メッセージがブラウザー判定に強く依存しているということまでであり、必ずしも Safari 固有 API が必須であると断言はできない [1][14][15]

8.3 スマートフォン側で進まない場合

ここは Linux 問題ではなく、マイナポータルアプリの対応機種、NFC 読取り、暗証番号、カードの置き方、通信状態の問題であることが多い。PC 側をいくら疑っても解決しないため、マイナポータルアプリの対応端末要件と読取り手順を先に確認したほうが早い [8][9]

8.4 どうしても通らない場合

ここまで試しても進まない場合は、Linux にこだわり続けるより、短時間だけ Windows または macOS の実機を借りるほうが全体最適になることがある。国税庁の推奨環境はそのために存在しており、締切直前に非推奨環境で粘ることには実益より機会損失が大きい。この判断は敗北ではなく、締切業務としての合理的な撤退条件である [1][11]

症状 主な原因 対処方法 技術的背景
「ご利用の環境では QR コード方式を利用できない」と表示される ブラウザー識別により推奨環境外と判定されている Firefox に切り替えて再試行する、または User-Agent 偽装を検討する Chromium 系ブラウザーは UA Client Hints を送るため、単純な UA 変更では整合性が取れないことがある
「Safari を使ってください」と表示される サイト側が Safari を安全側の推奨ブラウザーとして判定している可能性 Firefox で再試行する、または macOS 系 UA を試す ブラウザー判定ロジックにより Safari 系のみを確実な環境として扱っている可能性がある
QR 認証後にスマートフォン側で処理が進まない マイナポータルアプリの対応機種条件、NFC 読取り、暗証番号入力ミスなど 対応機種一覧を確認し、マイナポータルアプリでカードを正しい位置に置いて読み取る スマートフォンの NFC 機能でマイナンバーカードの IC チップを読み取る仕組みのため、端末条件の影響を受ける
環境判定を回避しても申告画面に入れない ブラウザー設定、拡張機能、通信状態など複数要因 ブラウザー拡張を無効化して再試行し、別ブラウザーでも確認する 環境判定は UA、Client Hints、JavaScript API など複数の情報を組み合わせて行われる可能性がある
どうしても申告処理に進めない 非推奨環境による互換性問題 一時的に Windows または macOS の実機を利用する 国税庁が公式に保証している動作環境は Windows と macOS のみである

9. ID・パスワード方式という別ルート

もし既に税務署で本人確認を済ませ、ID・パスワード方式の届出完了通知を持っているなら、この方式は Linux 利用者にとって有力な別ルートになる。理由は単純で、マイナンバーカード読取りやスマートフォン連携の不確定要素を避け、ブラウザー中心で処理できるからである。ただし、この方式はあくまで暫定対応として位置付けられており、国税庁はマイナンバーカード取得を推奨している [10]

また、新規発行停止が案内されている以上、これから新たに Linux のためだけにこの方式を取りに行く戦略は長期的には弱い。既に持っている人は使える可能性があるが、今後の標準解としては QR コード認証 + スマートフォン読取りの方が持続性が高いというのが妥当な見方である [2][10]


10. なぜ「Linux でできる」と言い切りすぎてはいけないのか

ここまで読むと、「結局 Linux でもできるのだから、非対応という表現は大げさではないか」と感じるかもしれない。しかし、その理解は危うい。公式が推奨環境を狭く定めているのは、入力から送信、PDF 表示、認証、周辺ソフトまで含めて一定条件でしか動作確認していないからであり、Linux の成功はその外側にある偶然的適合に依存している部分がある [1][5][11]

したがって、正確な言い方は「GNU/Linux は公式推奨環境ではないが、ブラウザー中心の経路、とくに QR コード認証とスマートフォンを組み合わせた方法では、条件次第で実務上成立することがある」である。この表現は回りくどく見えるが、事実と推測の境界を守るためには必要な精度である [1][2][4]


11. 結論

GNU/Linux で確定申告をする方法を 2026 年時点で最も正確にまとめると、次のようになる。第 1 に、国税庁の公式推奨環境に GNU/Linux は含まれていない。第 2 に、しかし QR コード認証はスマートフォンを IC カードリーダライタ代替として使う公式機能であり、この構造のおかげで Linux 側を単なるブラウザー端末として運用できる余地がある。第 3 に、実務上は Firefox を第一候補にし、必要に応じて User-Agent 変更を使い、カード読取りはスマートフォンへ逃がすのが最も合理的である。第 4 に、IC カードリーダライタや事前準備セットアップ依存の経路は Linux では避けるべきである [1][2][5][18][19]

要するに、本件の本質は「Linux で税務計算ができるか」ではない。実際の本質は、「環境判定とカード認証のどこを PC に残し、どこをスマートフォンへ移すか」という設計問題である。この構造を理解すると、GNU/Linux での確定申告は特殊な裏技ではなく、公式機能と Web 技術仕様の境界に沿って組み立てる実務上の回避設計として理解できる [2][14][15]


参考文献

  1. 国税庁. 利用環境の確認はこちら|令和 7 年分 確定申告特集. https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/shinkoku-junbi/kannkyou.htm
  2. e-Tax. QR コード認証. https://www.e-tax.nta.go.jp/systemriyo/qrcode_login.htm
  3. 国税庁. パソコンご利用ガイド 確定申告書等作成コーナー ( 令和 7 年分 ). https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kakutei/pdf/r07/sakukonatebiki/pc.pdf
  4. nanbuwks. Linux で 確定申告 2024 年度版. Qiita. https://qiita.com/nanbuwks/items/3ceb0b3f8e15a8aa3dbf
  5. e-Tax. e-Tax ソフト ( WEB 版 ) のご利用に当たって 【 パソコン 】. https://www.e-tax.nta.go.jp/e-taxsoftweb/e-taxsoftweb1.htm
  6. e-Tax. マイナンバーカード方式について. https://www.e-tax.nta.go.jp/kojin/mycd_login.htm
  7. 国税庁. QR コード認証について. https://www.keisan.nta.go.jp/r7yokuaru_sp/zoyozei/zoyozeisonota/scid2076.html
  8. マイナポータル FAQ. マイナポータルアプリに対応しているスマートフォン等を教えてください. https://faq.myna.go.jp/faq/show/2587
  9. デジタル庁. マイナポータルアプリ. https://services.digital.go.jp/mynaportal-app/
  10. e-Tax. ID・パスワード方式について. https://www.e-tax.nta.go.jp/kojin/idpw.htm
  11. e-Tax. QR コード付証明書等作成システムの推奨環境等. https://www.e-tax.nta.go.jp/cps/cps1.htm
  12. e-Tax. e-Tax ソフトのダウンロードコーナー. https://www.e-tax.nta.go.jp/download/e-taxSoftDownLoad.htm
  13. MDN Web Docs. User-Agent header. https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/HTTP/Reference/Headers/User-Agent
  14. Chrome for Developers. Improving user privacy and developer experience with User-Agent Client Hints. https://developer.chrome.com/docs/privacy-security/user-agent-client-hints
  15. MDN Web Docs. Sec-CH-UA header. https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/HTTP/Reference/Headers/Sec-CH-UA
  16. MDN Web Docs. Firefox user agent string reference. https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/HTTP/Reference/Headers/User-Agent/Firefox
  17. MDN Web Docs. Sec-CH-UA-Platform header. https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/HTTP/Reference/Headers/Sec-CH-UA-Platform
  18. MDN Web Docs. User-Agent Client Hints API. https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Web/API/User-Agent_Client_Hints_API
  19. Mozilla Bugzilla. Implement navigator.userAgentData. https://bugzilla.mozilla.org/show_bug.cgi?id=1750143