刑法について考える

本稿は、前半で「因果から独立した自由意志(古典的自由意志)」を否定した前提で、刑法が抱える根本問題をできる限り露出させる。後半で、以前の記事(自由意志・意識・現在の再定義)に接続し、自由意志を単なる否定で終わらせず、刑法の座標系を組み替えて再考察する。[1]

重要なのは、前半と後半が「矛盾」ではなく「視点の段階」である点だ。前半は、刑法が暗黙に依存している仮定を一度ぜんぶ剥がす作業である。後半は、剥がした後に残るもの(自己制御・理由への応答性・更新可能性)を明示し、刑法の制度目的・手続・介入設計を再配置する作業である。


前半:自由意志を否定した前提での刑法論

1. 本稿で否定する「自由意志」の定義

ここで否定するのは、日常感覚としての「自分で決めた気がする」という主観ではない。刑法の責任概念を支える形で暗黙に想定されがちな、次の意味での自由意志を否定する。

  • 同一の状況・同一の内的状態でも、別様にも行為できた、という反事実可能性
  • 因果連鎖の外から行為を開始する、という「始点としての意志」
  • 背景要因から独立に、行為者だけが最終原因として選んだ、という説明

この否定を採ると、犯罪は遺伝・発達・家庭環境・教育・貧困・社会的排除・偶発的な引き金などの条件の組み合わせから生じる因果的帰結として理解される。すると刑法は、「罰するとは何か」「責任はどこに発生するのか」「人間をどう扱いたいのか」という問いを避けられなくなる。

2. 刑法が暗黙に前提としている三つの柱

刑法は条文上「自由意志」という語をほとんど使わないが、実際には次の三つの柱に依存している。

  1. 帰属:ある行為が特定の主体に帰属する(誰がやったか)。
  2. 責任:主体が責任を負うに足る能力と状態にあった(理解と制御)。
  3. 正当化:国家が苦痛や拘束を課すことが正当化される(なぜ課してよいのか)。

この三つは似ているが別物である。特に「帰属」と「責任」を混同すると、議論が混乱する。例えば、行為の帰属が確定しても、責任能力(心神喪失等)が否定される場合は処罰の形が変わる。

3. 刑罰をめぐる代表的な正当化理論

刑罰の正当化は古典的には、応報主義と功利主義(帰結主義)の対立として整理される。概説として SEP の項目が便利である。[2][3][4]

3.1 応報主義(retributivism)

応報主義は、悪い行為には罰がふさわしい、という考え方である。直観的に強いが、「ふさわしい」の根拠を何に置くかで差がある。典型的には「別様にも行為できたのに敢えて破った」という反事実可能性を背後に置きやすい。

3.2 功利主義(utilitarianism / consequentialism)

功利主義は、罰が将来の利益(犯罪抑止・再犯防止・社会防衛)を生むから正当化される、という考え方である。ベッカリーアやベンサムは刑罰を必要最小限に抑える方向の議論を展開した。[5][6]

3.3 コミュニケーション理論・混合理論

応報と功利をそのまま混ぜると矛盾するため、さまざまな混合理論が提案された。たとえば Duff は、罰を「道徳的コミュニケーション」として捉える議論を展開する。[7] また「応報を上限として、範囲内で帰結を考える」タイプの限定的応報主義(limiting retributivism)もある。[8]

3.4 目的混在の可視化(一覧表)

理論 主張の核 自由意志否定での弱点 残る制度的機能
応報主義 悪い行為へのふさわしい罰 反事実可能性(別様にもできた)に依存しやすい 規範の象徴・被害感情の位置づけ(ただし制度原理化は危険)
功利主義 将来利益(抑止・防衛)の最大化 管理主義へ滑りやすい(最適化の名で過剰介入) 再犯防止・被害低減・資源配分の合理性
コミュニケーション理論 規範の確認と応答要求 「応答可能性」をどう測るかが難しい 人格として扱う制度語彙を保持しやすい
限定的応報主義 上限は応報で縛る 応報上限自体が自由意志前提だと不安定 無制限な功利主義を抑えるガードに使える可能性

4. 自由意志否定が突きつける「応報の崩壊」

自由意志を始点として否定すると、犯罪は条件の連鎖から出力された結果になる。すると、応報主義の「当然の罰」は、少なくとも素朴な形では根拠を失う。ここで誤解しやすい点を先に整理する。

  • 自由意志否定は「犯罪が悪くない」を意味しない。害は害として残る。
  • 自由意志否定は「介入が不要」を意味しない。将来被害を減らす介入は必要になりうる。
  • 自由意志否定が直撃するのは、「苦痛を与えることが当然だ」という正当化である。

言い換えるなら、自由意志否定は、刑罰のうち「苦痛の正当化」だけを強く揺さぶる。隔離や治療など、苦痛を目的としない介入は別の根拠で正当化できる余地がある。

5. 「罰する根拠が消える」問題を分解する

「自由意志がないなら罰せない」という直観は、実は複数の主張が混ざっている。混ざったままだと議論が前に進まないので、次のように分解する。

混ざっている主張 内容 自由意志否定でどうなるか
道徳的非難の正当化 「お前が選んだのだから責めてよい」 根拠が弱くなる(選択の始点がない)
被害回復の必要性 被害者の損害・安全・尊厳の回復 むしろ前面化する(害は因果でも害)
社会防衛 将来被害を減らすための隔離・監督 根拠は残る(危険は危険)
再犯防止(介入) 治療・教育・環境調整 根拠は強くなる(条件設計が中心課題になる)
感情の処理 怒り・報復感情の宥和 制度原理化すると残酷さが制度化しやすい

ここから分かるのは、「罰する」という言葉が指す範囲を狭めない限り、議論が必ず混線するということだ。自由意志否定が問題にするのは「苦痛それ自体を与える正当性」である。

6. 自律とは何を意味するのか(自由意志否定側の定義)

自由意志否定側では、自律は「他者に命令されない自由」ではなく、自己維持と方針更新の能力として定義するのが自然になる。要素としては次がある。

  1. 境界:自分と外部を区別する。
  2. 目的関数:何を維持・最適化するかがある。
  3. 更新:環境変化に応じて方針を変える。
  4. 一貫性:更新後も同一の系として存続する。

この定義だと、自律は連続量になる。細胞レベルの自己維持から、人間の社会的自己制御まで、程度の差として繋がる。

7. 意識は必要条件か副産物か(自由意志否定側の整理)

行動の成立に意識が必要条件ではないことは、反射や自動化された行動を見れば直観的に分かる。一方で、意識は単なる副産物とも言いにくい。複雑な環境では、情報統合、反実仮想、自己モデル更新が、更新の失敗率を下げる。したがって、意識は「行為の原因」ではなく「更新を安定させる統合・監督層」として位置づけるのが筋が良い。

8. 責任はどこに発生するのか(自由意志否定側の定義)

「意識があるから責任がある」と置くと、睡眠中や無意識的行動の扱いが破綻する。「自由に選んだ」も同様に破綻しやすい。そこで責任を、次のように制度概念として定義し直す。

責任とは、結果の帰属点を確定し、どこに介入すれば将来が変わるかを制度的に決めるための概念である。

この理解に近い古典的議論として、Hart が責任と処罰を免責事由や制御可能性と結びつけて分析したことが参照になる。[9] 概説として IEP の責任項目も参照できる。[10]

9. 「人間をどう扱いたいか」:三つの人間観

自由意志否定の前提で刑法を考えると、最終的に「人間をどう扱いたいか」という価値選択が避けられない。ここは端的に済ませず、制度設計の結果まで含めて三つを並べる。

9.1 応報的人間観

尊厳を「責められる主体であること」に置き、罰を当然の帰結として与える人間観である。被害者感情や共同体感情の統合に強いが、自由意志否定と論理的に衝突しやすく、残酷さが制度化されやすい。

9.2 管理的人間観

人間を原因の束として扱い、再犯率や危険性を最小化する最適化問題として刑法を設計する人間観である。理論整合性は高いが、人が「人格」ではなく「リスク」に還元され、予防拘禁・無期限拘禁・スコア統治へ滑りやすい。

9.3 二層モデル(因果として理解し、人格として遇する)

世界記述(因果理解)と制度設計(人格としての扱い)を分ける人間観である。因果理解を捨てずに、なお人を「理由に応答しうる更新可能な存在」として扱う。前半の議論の範囲では、これが管理主義の暴走を抑える現実的な設計原理になる。

9 の小項目まとめ(一覧表)

人間観 尊厳の置き所 刑法設計の傾向 主要リスク
応報 責められる主体 厳罰・象徴・報復の正当化 残酷さの制度化、自由意志否定と衝突
管理 最適化される存在 危険性中心、予防拘禁、スコア化 人格の消失、権力暴走
二層 更新可能性(理由応答) 回復+最小侵襲介入+再統合 設計の難しさ、手続コスト

10. 制度設計(前半の結論):罰から介入へ

前半の結論は、自由意志否定が刑法を廃棄するのではなく、刑法の目的を「苦痛の正当化」から切り離し、回復と介入として再設計せよ、という要請を突きつける点にある。

10.1 有罪概念の再定義

有罪を「道徳的劣等」の烙印にせず、「行為の確定」と「介入の必要性の確定」に限定する。有罪は介入開始の法的スイッチであり、人格否定の宣告ではない。

10.2 量刑の正当化原理

量刑(介入強度と期間)を正当化する原理を一本に絞る。

必要最小限の介入で将来被害を防ぐ。

これを外れると、介入が「苦痛の目的化」や「管理主義の無限拡大」に変質しやすい。解除条件、再評価手続、最長期間(上限)の固定は必須になる。

10.3 被害回復と修復的司法

自由意志否定モデルは加害者中心に偏りやすいので、制度の中心に被害回復を据える必要がある。修復的司法は犯罪を害(harm)として捉え、被害者のニーズと共同体の修復を中心に据える。Zehr の入門や UNODC の教材が参照になる。[11][12] ただし、謝罪の強制や「反省の点数化」は避ける。感情の査定は制度を歪めやすい。

10.4 更生・再統合の実証知見

介入を設計するなら「効く介入」の知見が必要になる。RNR(risk-need-responsivity)モデルは、リスク、ニーズ、応答性を軸に効果的介入を整理してきた。[13] また、デシスタンス研究は、更生を単発の出来事ではなく人生の物語(ナラティブ)として捉え、再統合を支える条件の重要性を示す。[14]

11. 個別論点 1:少年法

少年法は「例外」ではなく、自由意志否定モデルでは刑事司法の原型になる。少年の行為は発達と環境の影響を強く受け、更新可能性(介入効果)も高い。したがって、重点は厳罰ではなく、条件設計(教育・治療・環境調整)になる。

11.1 少年事件で混ざりやすい三つの要求(一覧表)

社会の要求 中身 制度が受け止めるべきか 制度化の注意点
安全確保 隔離・監督で再発を防ぐ 受け止める 期間上限と再評価を固定する
回復 被害回復、説明、修復プロセス 受け止める 被害者の同意を中心に設計する
応報 苦しませたい、報復したい 感情としては理解するが制度原理にしない 制度原理化すると残酷さが拡大する

12. 個別論点 2:死刑

死刑は自由意志否定モデルで正当化が難しい。理由は、死刑の根拠が応報や象徴に寄りやすく、かつ不可逆で誤判耐性がゼロだからである。死刑の典型的根拠は、応報、一般抑止、特別予防、秩序象徴に分けられるが、自由意志否定モデルで残り得るのは特別予防(再犯を物理的に不可能にする)だけである。しかし特別予防は終身隔離など他手段で代替可能であり、「必要最小限の介入」に反する。したがって、自由意志否定+最小侵襲原理のもとでは死刑は整合しにくい。

12.1 死刑の根拠と整合性(一覧表)

根拠 主張 自由意志否定との関係 代替可能性
応報 命には命 選択の始点を前提にしやすく不安定 代替不可(そもそも目的として問題)
一般抑止 恐怖で犯罪が減る 実証評価が難しく、過剰介入の温床 他の確実性・検挙率・社会政策と競合
特別予防 再犯ゼロ 根拠は残るが最小侵襲に反する 終身隔離などで代替可能
象徴 境界線の維持 制度を感情の燃料にしやすい 規範提示は他手段でも可能

13. 個別論点 3:AI による危険性評価

自由意志否定は AI と相性が良すぎる。人間が因果で動くなら予測モデルで管理できる、という発想が自然に出る。しかし刑事司法は「予測」だけでなく「規範」も扱う。ここを混ぜると「起こしそうだから罰する」という危険な転落(予防拘禁の拡大)が起きる。

この問題を具体化した代表例が、米国の COMPAS をめぐる論争である。ProPublica の報道が公平性を争点化し、提供元の反論やその後の分析も含め、同じデータでも公平性指標の取り方で結論が変わりうることが示された。[15][16][17]

13.1 AI 評価に必要なガードレール(一覧表)

ガードレール 内容 狙い
単一スコア禁止 数値一発で拘束・量刑を決めない 人格のスコア還元を防ぐ
不確実性の開示 誤差、偽陽性率、適用限界を明示 「客観」の擬態を剥ぐ
反論権 当事者が入力データや解釈を争える 手続的正義の確保
説明可能性 なぜそう出たかを人間語で説明 理由の公開と監督可能性
外部監査 データ偏り・代理変数・運用を監査 権力増幅器としての暴走を抑制
目的限定 刑事目的以外(採用・信用等)へ転用禁止 スコア社会への接続を遮断

さらに、神経科学や AI の知見を過大に法へ直結させる「過剰主張」の問題もある。Morse は、脳科学の発見がそのまま責任判断を置き換えるわけではないと警告している。[18]


後半:過去記事と接続したうえでの再考察

1. 接続の前提:前半の「自由意志否定」を精密化する

前半は意図的に「自由意志否定」を強く言った。しかし過去の記事の立場に厳密に合わせるなら、否定されるのは「因果の外部にある始点としての自由意志」であり、自由意志を高次の自己制御機能として再定義する余地がある。過去記事はその再定義を中心に据えている。[1]

この精密化が重要なのは、刑法に必要なのが「世界を破る選択」ではなく、「理由に応答し、修正し、将来の行動を変えられる」という更新可能性だからである。刑法の責任能力や免責事由の実務は、すでにこの方向(理解と制御の可否)に依存している。

2. 「現在(いま)」の再定義が刑法の時間軸を変える

過去記事は「現在」を、主体が情報を統合する局所現象として捉える。[1] これを刑法へ翻訳すると、刑法は過去の行為を裁く制度であると同時に、現在の更新構造をどのように変えるかを扱う制度になる。犯罪という出来事は過去に固定されるが、制度が扱う対象は「過去の一点」だけではなく、現在の統合過程(意識・自己制御・環境条件)である。

この視点が入ると、「責任」は過去志向(過去の非難)から、現在志向(更新の引き受け)へ再配置される。前半で提示した責任の再定義が、過去記事の時間観と整合する理由はここにある。

3. 意識=統合・監督層としての意味:内心査定を避ける

過去記事の枠組みでは、意識は行為の始点ではなく、情報統合と自己モデル更新の層である。刑法においては、これを「反省の深さ」や「内心の善悪」の査定に用いるべきではない。むしろ意識が果たす統合機能を支える条件(治療、教育、生活基盤、孤立の回避)を整備し、更新可能性を作ることが制度の仕事になる。

自由意志と意識をめぐる実験・理論の代表例として、Libet の実験は意図と脳活動の時間関係を争点化し、Wegner は意志の感覚を構成的に論じ、Sapolsky は自由意志否定の倫理的含意を広く論じた。[19][20][21] これらを刑法へ直結させるのではなく、刑法が内心主義に寄りすぎる危険を可視化する材料として扱うのが適切である。

4. 二層モデルの必然性:因果の理解と人格の扱いを混ぜない

前半で露出した最大の危険は、自由意志否定が管理主義へ滑ることである。これを避けるには、因果理解と人格としての扱いを分離する二層モデルが必要になる。

  • 第一層(世界記述):行為は因果で生じる。背景要因を丁寧に分析する。
  • 第二層(制度設計):それでも人を理由に応答しうる存在として遇し、反論可能性・出口設計・最小侵襲を中心に据える。

二層モデルは「建前」ではなく、混線を避けるための設計原理である。混線すると、予測が規範を上書きし、「起こしそうだから拘束する」という予防拘禁の無限拡大が正当化されてしまう。

5. 過去記事の語彙で刑法を言い直す:責任=更新の引き受け

過去記事の語彙(更新、統合、現在の生成)を使うと、刑法は次のように言い直せる。

刑法とは、主体(更新過程)が将来の行動を変えられるように、社会が条件を設計し直す制度である。

このとき責任は、「苦痛を与える権利」ではなく「更新を引き受ける帰属点」である。しかもその引き受けは行為者だけでなく社会側にも及ぶ。なぜなら、住居、雇用、治療、孤立、差別といった条件が再犯を左右する以上、社会が条件を放置することは、将来被害の温床を放置することになるからである。

6. 少年法・死刑・AI 評価を、接続後の座標系で再配置する

6.1 少年法

接続後の座標系では、少年法は「更新可能性を最大化する制度」として明確に位置づく。内心査定ではなく条件設計であり、被害回復の制度化と並走する。少年を人格として遇するとは、甘やかすことではなく、更新可能性を社会が作ることを意味する。

6.2 死刑

死刑は更新可能性を制度が自ら切断する不可逆措置であり、接続後の座標系(更新を引き受ける制度)と強く衝突する。応報や象徴に寄りやすい点も、前半よりいっそう際立つ。したがって接続後の結論も変わらない。整合性の観点では存続が難しい。

6.3 AI 評価

AI は因果層の道具としては有用でも、制度層に侵入すると人格をスコアに還元しやすい。ゆえに、AI は決めない、人が理由を書く、反論可能性と目的限定を中心に据える、というガードレールが必須である。COMPAS 論争は、その必要性を具体的に示した事例として引き続き参照できる。[15][16][17]

7. 総合的な接続(理論地図)

前半(自由意志否定で露出)と後半(過去記事の再定義で再配置)を貫く接続を、一本の地図として示す。

1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
        世界記述(因果) ─────────────────────────────┐
                                                   │
                                                   ▼
                                        意識=情報統合・監督層
                                                   │
                                                   ▼
                           自由意志(再定義)=高次の自己制御機能
                                                   │
                                                   ▼
                 自律=自己方針の更新可能性(連続量)/理由への応答性
                                                   │
                                                   ▼
                 責任(再定義)=苦痛の正当化ではなく、更新の引き受けの帰属点(制度概念)
                                                   │
                                                   ▼
                 刑法(再設計)=被害回復+将来被害の低減+再統合(最小侵襲・出口設計)
                                                   │
                          ┌────────────────────────┬───────────────────────┐
                         ▼                        ▼                       ▼
               少年法(更新設計の原型)   死刑(不可逆切断で衝突)   AI 評価(因果層の道具だが制度層侵入に警戒)

7 のまとめ(一覧表)

論点 前半(否定で露出) 後半(再定義で再配置)
自由意志 始点として否定 → 応報が不安定 高次自己制御として残す → 理由応答性へ
時間(現在) 過去の断罪に偏りやすい 現在の更新へ軸足移動
意識 原因でも免罪符でもない 統合・監督層として条件設計に翻訳
責任 罰の根拠が崩れる 更新の引き受けとして制度化
制度目的 罰の混在を分解 回復+最小侵襲介入+再統合へ統合

結論:刑法が守るべき設計原理

本稿の結論を、制度設計として固定できる形で箇条書きにする。

  1. 応報(苦痛の目的化)を制度原理にしない。 感情は理解するが、制度は苦痛を目的にしない。
  2. 被害回復を中心に置く。 害は因果でも害であり、回復は制度の第一目的である。
  3. 介入は最小侵襲。 目的達成のための必要最小限を超えない。上限と再評価を固定する。
  4. 出口設計を制度中心に置く。 いつ、どの条件で、どう解除されるかを明示する。
  5. 二層モデルを崩さない。 因果理解と人格としての扱いを混ぜない。
  6. AI は決めない。 人が理由を書き、反論可能性と監査を担保する。

自由意志を否定すると、刑法の応報的基盤は崩れる。しかし過去記事の枠組みを引き受ければ、自由意志は「世界を破る始点」ではなく「自己を更新しうる統合・監督の機能」として再定義でき、その再定義は刑法を「罰」から「回復と更新設計」へ移す理論的支柱になりうる。刑法の最終目的は、過去の断罪ではなく、被害の回復と、将来被害を減らすための更新である。ここに、前半と後半を貫く一本の筋がある。


参考文献

  1. id774, 「自由意志とは何か」 (2025-12-30). https://blog.id774.net/entry/2025/12/30/3168/
  2. Stanford Encyclopedia of Philosophy, “Punishment”. https://plato.stanford.edu/entries/punishment/
  3. Stanford Encyclopedia of Philosophy, “Legal Punishment”. https://plato.stanford.edu/entries/legal-punishment/
  4. Stanford Encyclopedia of Philosophy, “Criminal Law”. https://plato.stanford.edu/entries/criminal-law/
  5. Cesare Beccaria, “On Crimes and Punishments” (Liberty Fund). https://files.libertyfund.org/files/2193/Beccaria_1476_EBk_v6.0.pdf
  6. Jeremy Bentham, “An Introduction to the Principles of Morals and Legislation” (Early Modern Texts). https://www.earlymoderntexts.com/assets/pdfs/bentham1780.pdf
  7. R. A. Duff, “Punishment, Communication, and Community” (PhilPapers). https://philpapers.org/rec/DUFPCA
  8. Richard S. Frase, “Limiting Retributivism: The Consensus Model of Criminal Punishment” (SSRN). https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=420324
  9. H. L. A. Hart, “Punishment and Responsibility” (PhilPapers). https://philpapers.org/rec/HARPAR-7
  10. Internet Encyclopedia of Philosophy, “Responsibility”. https://iep.utm.edu/responsi/
  11. Howard Zehr, “The Little Book of Restorative Justice” (publisher page). https://www.goodbooks.com/the-little-book-of-restorative-justice.html
  12. UNODC Education for Justice, “Changing Lenses: A New Focus for Crime and Justice”. https://www.unodc.org/e4j/en/primary/teaching-materials/ecd-changling-lenses.html
  13. D. A. Andrews and J. Bonta, “The Psychology of Criminal Conduct” (overview). https://www.routledge.com/The-Psychology-of-Criminal-Conduct/Andrews-Bonta/p/book/9781032000122
  14. Shadd Maruna, “Making Good: How Ex-Convicts Reform and Rebuild Their Lives” (publisher page). https://www.apa.org/pubs/books/4317200
  15. ProPublica, “Machine Bias” (2016-05-23). https://www.propublica.org/article/machine-bias-risk-assessments-in-criminal-sentencing
  16. W. Dieterich, C. Mendoza, T. Brennan, “COMPAS Risk Scales: Demonstrating Accuracy Equity and Predictive Parity” (2016 PDF). https://go.volarisgroup.com/rs/430-MBX-989/images/ProPublica_Commentary_Final_070616.pdf
  17. Matias Barenstein, “ProPublica’s COMPAS Data Revisited” (arXiv, 2019). https://arxiv.org/abs/1906.04711
  18. Stephen J. Morse, “Brain Overclaim Syndrome and Criminal Responsibility” (UPenn Scholarship, 2006). https://scholarship.law.upenn.edu/faculty_scholarship/117/
  19. Benjamin Libet et al., “Time of Conscious Intention to Act in Relation to Onset of Cerebral Activity” (1983). https://www.federvolley.it/sites/default/files/Brain-1983-LIBET%20-%20Time%20of%20consious%20intention%20to%20act%20in%20relation%20to%20onset%20of%20cerebral%20activity.pdf
  20. MIT Press, Daniel M. Wegner, “The Illusion of Conscious Will”. https://mitpress.mit.edu/9780262731621/the-illusion-of-conscious-will/
  21. Robert M. Sapolsky, “Determined: A Science of Life Without Free Will” (publisher page). https://www.penguinrandomhouse.com/books/711463/determined-by-robert-m-sapolsky/

コメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)