最初に言っておくと、これはデータに基づくものではなく、業界内での体感の話。銀行以外の金融業として、クレジットカード、保険、証券といったものがあるが、やはり王者はクレジットカード業界だと思う。
まずカード。クレカの端末を設置してもらうだけで売上の数パーセントが自動的に入ってくるのだからキャッシュ・フローが安定しまくりである。加盟店手数料以外に、カード年会費等、分割払い等による金利、会員向けビジネスというのも有り、安定した収益基盤がありながらさらなる付加価値を提供していくことのできる強みもある。ウォーレン・バフェットがアメリカン・エキスプレスの株式を大量に保有していたのも当然である。クレジットカードというのは、広義の信用取引にあたる。信用取引による利便性を人々に提供しているのだから、それに引き換えとなる収益が安定して得られるというわけである。潤沢した資金があって、あとはそれらがシステム投資にまわればパソコンカチャカチャ業界も安泰ですね。
保険について、昔は生命保険というのが看板商品であった。かつては一家の大黒柱として男が働き女子供を養うのだから、その大黒柱にもしものことがあったときに備えて生命保険が売れたのだ。ところが最近は非婚化・少子化が進み、情報弱者以外には保険が売れなくなりつつある。そこで最近はがん保険というのを一生懸命売っている。がんというのは心理的に怖いので、がんになったらお金かかりますよといって保険を売るのだ。保険というのは、いわばオプション取引のようなものである。買い手は何も無ければ掛け金分損をするが、テールリスクが発生した際にメリットをもたらす。オプションの売り手というのはキャッシュさえあればトータルで勝てる取引であるので、努力すれば何とかまだ未来がありそうである。
一番厳しいのは証券である。リテールに限った話だが、かつては個人に売買を勧めることで手数料を収益としていた。言うまでもなく、昨今はネット証券が台頭しており、手数料などほとんどタダ同然というところが多い。それに、人々の金融リテラシーもだんだん向上してきて、頻繁な売買などすればその分リターンを押し下げるだけであるという事実がだいぶ広く知れ渡ってきている。ノーロードのインデックス投信も、昔では考えられないほど安いコストで積み立てられるようになった。極めつけは少額投資非課税制度いわゆる積立 NISA の登場である。はっきり言って積立 NISA を広く利用してもらったところで証券会社側に利益は皆無である。それどころか口座の管理コスト、取引報告書などの法定帳票の発行コストなど、運用維持に関するコストを考えれば大赤字である。
金融庁は顧客本位ということを強く言うようになって、いま日本国内に約 250 前後の証券会社があるのだが、将来はかなり厳しい状況となるであろう。特に中小証券会社は生き残りをかけ、もう証券会社やめて金融商品仲介業に流れてしまったり、あるいは自己ディーリングを強化したりしているものの思うように収益が得られず各社とも苦戦している。金融庁も本気で証券会社を潰して数を減らしていく気でいるとしか思えない。まあ、元はと言えば顧客に明らかに不要な取引を執拗に勧誘したりだとか、顧客を無視して自己の利益のために現代では考えられないような行為をしたりとかしていた歴史があり、そのツケがまわってきたのだと思えば自業自得とも言えなくはない。
それくらい現代ではバイサイドに有利な状況があるにも関わらず、どうも日本人のマインドとしてまだまだ投資にお金を回すというのが根付いていない。現状として、日本人の貯金が全体で約 2,000 兆円もありこのお金が運用されずに眠っている。ちなみに、そのうち認知症の人間の貯金だけで約 200 兆円もあるという。これらがもし今後マーケットに出て運用されるようになると、世界にどれだけのインパクトを及ぼすことになるのか想像も付かないレベルの数値である。それだけ日本人というのはポテンシャルを秘めているわけで、そして多くの人がそれを実感していないという現状がある。ここにチャンスを見出すかどうかが大切なところだ。