証券というのはとても面白い。
法律的な制約は除くとして、理論上あらゆるものは証券化することができる。証券は市場にて価格が形成される。世の中のあらゆるものの価格を形成してそれがリアルタイムに変動する。市場が真に効率的であるかはともかくとして、世界の動きが価格というその数字にリアルタイムに反映されるのだ。
ひとつとして意味の無い数字というものはなく、証券の裏付けとなるモノの価値にまつわる人々の様々な物語を内包しているのである。
証券とは、世界と人間とのつながりを、まさに数字に集約したものであるのだ。こんなにも血沸き肉踊る面白いものがあるだろうか。
自分はというと、そのような証券のシステムに関わりたくて、いまそれが実現できている。だから、やりたいことを仕事にするということもできている。
ところが問題もある。証券システムの業界とは金融システムの一分野である。金融システムは、往々にしてレガシーな技術が使われているし、考え方も安全側に全振りしたきわめて保守的な要素が強い。もちろんそれは社会の要請として当然のことなのであるが、新しい技術を次々と投入してイノベーションを起こすというところからは、遠くなりがちである。
自分はそのような中でなんとか新技術を投入する分野を開拓しようとしてはいるもののやはりどうしてもそれは小さい規模に留まる。周りを見渡しても多くの人間は客先に常駐している。なぜならそれが大きな案件を進める上では労働集約やセキュリティなどの理由で合理的であるし、大きな案件に携わってこそ大きな利益に貢献するからである。一部、自社で開発をする案件もあるが、多くは顧客のシステム予算上の理由から、エクセルやアクセスなどでツールをユーザー部門にて開発しコストカットするのを受託して持ち帰るとか、そのような話であることがほとんどだ。
もちろんこれは会社のせいではない。社会の要請がそのようになっているのだ。すなわち安定的に利益を確保するためには、このような手堅い案件をひたすらこなすのが一番手っ取り早いのである。そして需要としても、このような案件が実際に多く、社会貢献する近道なのである。
日本人のソフトウェア・エンジニアとして優秀な人々はどのような仕事をしているかと言うと、料理のレシピサイトを作ったり、スマホ家計簿を作ったり、友達とのチャットツールに携わったり、ソーシャルゲームを作ったり、あるいはアメリカ発祥の会社で検索エンジンだのソーシャルネットワークだのを作ったりしている。そのような分野を否定したり軽く見るつもりはないのだが、今までに書いた自分のやりたい証券という分野からはほど遠い。率直に言って、人々の趣味や娯楽に近い分野であると思っている。
自分としてはこれを残念に思っている。なぜなら、優秀なソフトウェア・エンジニアの能力は娯楽分野に投入され、マネタイズも結局のところは広告収入が多くだということだからだ。
テクノロジー自体は面白そうであっても、自分はそういう分野で活躍して社会実装したいわけではないのだ。
証券と新技術というのは相反するものなのであろうか。このようなジレンマをどうすれば解決できるのか、日々考えている。