三國志Ⅴには難易度設定が存在する。内容は初級、中級、上級に加えて 3DS 版から追加された超級である。これは言葉通りに受け取るとゲームをやり込むほど上級の難易度でプレイしたほうが良さそうに見えるが実はそのような単純なものではない。初級・中級と上級・超級に大きな違いがある。わかりやすく言えば次の通りだ。

初級・中級:敵勢力がチートをしない
上級・超級:敵勢力がチートをする

ここでは境界に注目し、中級と上級の違いについて書いておこう。

まず上級以上では、敵将の勇名・経験が時間経過とともに自動的にどんどん上昇していく。 Wiki などでは勇名が自動上昇とあるが、実際には経験も自動上昇していく。本来、勇名というものは修行を除くと戦場でしか上昇しない。これはこの手の戦略ゲームではよくある現象として、自勢力が版図拡大していくと敵勢力が当然ながら相対的に弱くなってしまうので、バランスを補正するため敵勢力を強化するというものである。このような補正には問題がある。たとえば本来ならゲーム序盤で有力な将を自勢力に取り込んだほうが有利になるはずだが、補正を悪用してあえて才能ある将を敵勢力で中盤まで泳がせ、その後麾下に加えることで補正によって強化された将を手に入れることができてしまう。このためゲーム中盤から後半で配下に加わった将のほうが陣営の古参より強くなってしまうという問題が発生する。

この問題をさらに修復するため、三國志Ⅴでは新たに傘下に加えた将の勇名のうち上級の場合は 25% 、超級の場合は 50% がダウンするという仕様となっている。ところが問題なのは、戦争に出撃せず都市を守備していた将は勇名が上がらないという本作の仕様である。基本的には戦場でしか勇名が上昇しないため、侵攻に出していない将は勇名が初期状態のままとなってしまう。このため終盤が近くなると史実とは大幅に乖離した力関係が発生してしまうのだ。また、勇名はともかく経験についてはダウンしない。そのため、同様に敵勢力で泳がせていたほうが成長するというパラドックスが完全に解決していない。すべての将が等しく経験を上昇させることができる季節ごとに全員で内政をおこなう戦略をとったとしても、敵勢力のチートのスピードに経験上昇のスピードが追いつかないのである。また時間をかけてじっくりプレイしていると、敵勢力の将が雑魚まで含めて勇名 10000 だらけになってしまう。これはいくらなんでも不自然だ。

本来、難易度というものは、その設定によって敵がより賢くなったり戦術が上手になったりするのが好ましい。ところが中級と上級で検証してみると、戦略や戦場での采配ぶりにはまったく差がないことがわかる。つまり敵勢力のチートを有効化するか否かだけが難易度設定として用意されているのだ。それならば、エディット機能を活かして、あえて自勢力を弱体化したり、敵勢力を強化した上で、公平なシステム上でプレイしたほうがより楽しめる。チートありきの CPU に対して勝利するということは、プレイ中にそのチートを覆すだけの差をプレイヤー側が生み出せるということの証明であり、そもそもゲームとして不完全な出来損ないをチートでバランスを取るというわけであり、最初から無理がある話なのである。史実のシナリオでは、年代にあわせて将の勇名・経験が初期設定されている。これを活かすなら、勇名・経験の自動上昇は無しにして、プレイヤーの育成で将が育つのが好ましい。

では中級以下でプレイすると問題ないかというと、ここで CPU によるプレイングの不味さが今度は問題となる。どういうことかというと CPU はすべての将をまんべんなく育成するということはしない。訓練は武力が最も高い将しか実行しないし、その割には軍事担当の将をひとつの都市に何人も配置したりする。人材登用や計略も実行するのは一部の将に偏っている。担当をこまめに変えることをしないので、内政担当はずっと内政のままだし、内政以外の将は特定の行動でしか経験上昇しない。そのため放置されてしまった将が経験の低いまま終盤を迎えてしまう。本来、育成すれば華がひらくような才能のある将が最後まで活躍できないといった問題が起こるのだ。

上級以上の難易度設定に活用の場が無いのかというとそうでもない。たとえば仮想シナリオの英雄集結ではほとんどの将は勇名が低く、また初期状態では特殊能力をひとつだけ解放された状態から開始される。このシナリオではむしろ上級以上の難易度設定でプレイしないと、敵勢力の将の個性がほとんど発揮されないままプレイが終わってしまう。ここは史実ではなく仮想だからと割り切って上級以上の難易度設定にしたほうが楽しめることは間違いないだろう。

できることなら、敵将の経験は自動上昇するが勇名は自動上昇しないといったモードが欲しかった。あるいはいっそのこと経験システムを廃止し、育成要素は勇名のみでも良かったと思う。すなわちすべての将を経験 60000 で開始するといったモードである。このあたりは育成要素と能力解放のジレンマとしてゲームカタログ Wiki でも言及されている問題点である。

投稿日: 作成者: 774